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上達のヒント

聞き手:Mizuki Sikano

ネット発の歌い手というだけでなく自らボーカル・ミックス、エフェクト・プロセッシングも行う美的センスとこだわりの持ち主、超学生(読み:ちょうがくせい)。そんな彼ならではの視点で“ネット発アーティスト”を紹介し、そのサウンド的に魅力的な部分を語ってもらう。彼の脳内で日常的に行われている音楽的研究を通して、歌と音楽制作の楽しみを新発見できる連載!

超学生からご挨拶!

“ボーカル・ミックスの方向性を決めるために音楽を聴く”とは?

ーまずは、自己紹介をお願いします!

超学生 超学生と申します! 普段はYouTubeに週1のペースで、大体木曜日の19時辺りで歌ってみた動画を投稿していて、レコーディングからミキシング、マスタリングまで自分でやっています。

超学生のYouTubeチャンネル、Chogakusei Official

ー毎週となると、日々デスクで行うミックス作業などが忙しそうだと思ったのですが、どんなときに音楽を聴いていますか?

超学生 ミックス前に音の方向性を決めるために、普段聴いているアーティストや最新リリースから何曲か聴いています。それによって、“スピーカーからこういう音が出たら正しい”みたいな情報を得て、耳をチューニングしているんですよね。あとはお風呂にBluetoothスピーカーのBOSE SoundLink Micro Bluetooth Speakerをぶら下げているので、それでリラックスしながら聴いたりもしますね。

ー前者のパターンだと、ミックスの参考として聴くということですよね。

超学生 それでも、同じ曲を繰り返し何回も聴くってことはしないです。今週の音源はこのパターンでいこうかなぁみたいな、方向性を考えるために聴いています。僕的には結果的に正しい音ってよりかは、楽しく作れる方を選んでいくことが重要なんです。

ーミックスの方向性というのは?

超学生 常に“これやりたいなぁ”ってアイディアはふわふわと頭の中に浮かんでいて。それこそ、ザラ付いた質感とかクリアな質感とか、ロックでパンチの効いた音を作ってみたいとか。それで“今日はザラっとした質感でいきたい気分だな”って思ったら、エド・シーランのあるアルバムを聴いて耳を慣れさせたり。別の気分のときは、Mrs. GREEN APPLEを聴いたり。“まるでそこに居るかのような生感”にしたいなら、ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」とか。ビリー・アイリッシュの声は、全楽曲を手掛けているプロデューサーで、ビリーの実のお兄さんでもあるフィネアス・オコネルが作っていたと思うのですが、彼は素材を生かすってよりもビンテージ機材を通しているようなウォームな音像を作るなと思います。

ーボーカル・ミックスでも画期的なものだとそれが“トレンド”になって、世界中のさまざまな音楽に取り入れられたりもしますよね。超学生さんは洋楽から邦楽まで幅広く聴かれていると思いますが、それは自分の好きなものを選ぶのか、あらゆる最新音楽チャートを中心に聴いているのか、どちらでしょうか?

超学生 チャートも見ますが、好きだからという方が多いと思いますね。ただYouTubeのおすすめとかも聴きます。そういうところから“今欲しい音これじゃん”って気付いたりもするので。

超学生がボーカル・ミックスを学んだ方法

ー超学生さんは最初にボーカル・ミックスをしたのはいつですか?

超学生 自分で録音した素材を並べて整えるというようなことが最初で、小学校6年生のときです。最初はフリーのDAWソフトを使ってミックスしました。

ーどうやってボーカル・プロセッシングなどを勉強しましたか?

超学生 独学で学びました。今年からオリジナル楽曲も作らせてもらうようになったので、エンジニアの方にレコーディングとミキシングを頼む機会にも恵まれるようになっていったのは大きいです。お仕事と関係なく仲良くしてくださるエンジニアの方も居るから、それでメジャーのサウンドを作る視点も学ばしてもらったり。

ー勉強自体はいつごろから?

超学生 去年とかですね。本格的に歌ってみたの投稿を始めて、頻繁にミックスを行うようになったのが2、3年前なので。今までは自分のやりたい音のスタイルを探したかったので、“プロの視点”を知ってしまうことを恐れてたんです。でもこの2年で自分の好みの音を結構作れるようになってきたから、1回この辺で勉強しようって思えたんですよね。本を読んでみたりもして。

ーどのような本を?

超学生 去年はリットーミュージックから出ている、角 智行著『スグに使えるEQレシピ』とか、角 智行著『エンジニアが教えるボーカル・エフェクト・テクニック99』とかを買って読んでますよ。正解とかじゃないと思うけど、メジャー音楽のセオリーを学べたのが良かったです。

ーエンジニアの視点に触れることで、一番印象的な発見は何でしたか?

超学生 プロのエンジニアは録りの段階で音の方向性をかなり決められているのがすごいですよね。だから、プラグインのインサートの数が少ないですね。僕も含めてなんですけど、インターネット出身の人たちの中には“プラグインは挿せば挿すほど音が良くなる”って思っている人がいるんですよ。あとは、気になる部分が無くならなくていつまでもミックスが終わらず、何回もEQを挟んだりとか(笑)。でもやり過ぎると音が濁るんですよね。

ーそういった気付きを自身のボーカル処理にも反映させていく?

超学生 エフェクトのプロセッシングの量を少なくしたり、エフェクトのかけ録りをしてみたりしました。でもそれによって、僕はナチュラルのサウンドよりも、エフェクトがいっぱい挿さった音が好きなのかもしれないなぁと思うようになって来ましたね。

宅録して一人で作るトラック・メイカーならではの音

ー今回連載ではボカロPなどネット発アーティストの音楽を取り上げていきますが、彼らのサウンドを聴いて面白いと思う部分はどんなところですか?

超学生 皆さんに共通と言うわけではないですが、どの曲にもいい意味での不自然さがあると思います。ボカロPを含むトラック・メイカーの方々はポップスのマナーに則って曲作りをするよりかは、ベッド・ルームで自分自身が良いと思うものを作ろうと考えている方も多いですよね。そうすると、中にはボーカルにコンプがかかり過ぎていたり、“何でここ”ってタイミングで楽器のフレーズが入ってきたり、キックが少し右にずれていたり、独創的な表現を好んでやっている方も居たりすることがある。でもそれが作り手の個性になっているのが聴いていて理解できるので、それが面白いですね。

ー“エフェクトがいっぱい挿さった音が好き”って仰っていましたが、多少無茶苦茶な雰囲気になっても“音楽の世界観と相性の良いサウンド”というのが存在する?

超学生 そういったニュアンスですね。だから逆に、メジャーっぽいサウンドを目指していると感じられるボカロPの楽曲をカバーするときは、レコーディング段階からマイクプリの設定など細かく調整したり、音はかなり作りこんだりはします。

ーメジャーっぽいサウンドとは?

超学生 プロのレコーディングやミックスのスタジオには、アナログの高級アウトボード・エフェクトが置かれていて、メジャーの音楽のミックスにはそれらをふんだんに使うんですよね。だから、今っぽいデジタルなAI系のプラグインを通した音とは、かなり違った方向性の音がすると感じます。でもそういったメジャーっぽいサウンドにしたいトラック・メイカーの人たちは、そんな高級アウトボードとかは持っていないけれどアナログ・モデリングのEQ/コンプやエフェクトとかを選んで使って、ウォームさや、太さなどを感じさせる音に仕上げるんです。そういうハードウェアの音が好きなんだろうなというのが伝わってくるのが、メジャーっぽいサウンドだなと感じます。特に電子音のキックに、エフェクトでアナログの質感というか倍音を足したりした音はよく聴きますよね。

ーこれからネット発のアーティストのサウンドについて連載していきますが、この企画を通して研究したいことなどありますか?

超学生 僕は曲を作らないからどうしても声をミックス処理する側の目線になっちゃいますが、作る側であるネット発のアーティストの方々がどんな音を好んで使うのかも気になりますし、聴く側であるリスナーの皆さんがどんなところを聴いているのかも気になります。だから記事で取り上げた楽曲について、読者の方々のご意見も伺いたいですし、作ったご本人にお話を聞いたりもしてみたいです。

ー超学生さんのように、自分で宅録して、ミックスして、歌ってみた動画をあげたい人たちにとってヒントになるようなものも教えていただけるのでしょうか。

超学生 声は人それぞれ違って、僕の声や歌い方も独特で処理も独自のものだから、参考になるかは分かりませんが……普遍的に使えるような何か注意点とかは教えられるかもしれません。正解にはならないと思いますが、ヒントにはなるとは思います!

ー自分でも音楽をやっていきたいけど、できていない読者にメッセージを!

超学生 僕もまだまだなんで、読者の皆さんと一緒に勉強して、一緒に強くなっていけたらなと思ってます!

超学生が7月に購入したプラグイン

UNIVERSAL AUDIO UAD-2 LEXICON 480L

超学生 僕はリバーブと色付け(編註:エフェクトっぽく質感が加えられる)用のEQプラグインを集めるのが結構好きなんですけど、久々に“お〜良いな”と思ったリバーブのプラグインです。密度が高い感じがして、でも濁っているわけじゃなく……すんと広がっていく透明感も兼ね備えた音。だからザラ付かせたいときはあまり向いてないですが、“存在感を残しつつオケに溶け込ませたいとき”にめちゃくちゃ使えると思います。

ーリバーブって集めたくなりますよね。UAD-2 LEXICON 480Lはどうやって使っていますか?

超学生 僕はボーカルにリバーブを2重でかけることが多いんです。短いルーム・リバーブの後に、長いプレート・リバーブを使います。UAD-2 LEXICON 480Lはさまざまなリバーブのタイプを選択できますが、中でも僕はプレート・リバーブとして使うのが好きです。最近だと、「【超学生】エゴロック(long ver.) @歌ってみた」で使っています。

ーリバーブのセッティング模索中の方のために教えていただきたいのですが、実際にどのようなセッティングで使いましたか?

超学生 奥行き感と厚みをデザインしたかったのでリバーブのタイプはプレート・モードを選択して、プリディレイ(編註: 直接音と反響音の時間的な距離のこと)はやや長めに設定しました。普段は20~25msecで設定することが多いのですが、UAD-2 LEXICON 480Lでは後から迫ってくるような実機っぽい質感が作れたので42msecに設定しました。このプラグイン内でもローパス・フィルターをかけていますが、僕の声+この曲の場合だとややきらびやかに響き過ぎてしまうところがあったので、落ち着かせる目的でリバーブのセンド・トラックの前段にディエッサー(編註:耳障りなシビランスなどのノイズを抑えるエフェクト)をインサートしました。225BPMの曲のテンポにしては、リバーブ・タイムが2.8msecとやや長めですが、サイズ値を低めに設定したところ、このリバーブ・タイムがボーカルを前に押しつつも空間を広げてくれたため良かったです。

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