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聞き手:Mizuki Sikano ※メイン画像引用元:YouTubeサムネイル(リンクは文中)

ネット発の歌い手というだけでなく自らボーカル・ミックス、エフェクト・プロセッシングも行う美的センスとこだわりの持ち主、超学生(読み:ちょうがくせい)。そんな彼ならではの視点で“ネット発アーティスト”を紹介し、そのサウンド的に魅力的な部分を語ってもらう。彼の脳内で日常的に行われている音楽的研究を通して、歌と音楽制作の楽しみを新発見できる連載! 今月はGiga×TeddyLoid「デスペレート feat. LOLUET」です。

ネット発アーティスト・サウンド解剖開始

余談:Amazon Kindleのタブレットを2枚持ってる理由

ー1カ月ぶりですね! 最近ハマっている遊びとかはありますか?

超学生 最近、Amazon Kindleのタブレットを買いました! でも購入して数週間で何かしたわけでもなく壊れちゃったんですよ。幸い保証期間内なら無料で交換できる、ということだったので手続きをして、無事新しいタブレットを受け取ったんです。

ー良かったですね! では快適なKindleライフが送れている?

超学生 それはそうなんですけど、新しいのと交換なので壊れた方をある期限内までに返さないといけないじゃないですか。その期限として僕は来年の日付が書かれていたと思ってたんです。それで安心してたら、どうやら正しい返送期限は別にあったらしくて(笑)。返送しそびれたら、追加で4万円取られてしまったっていう。

AmazonのKindleタブレットの2枚持ち(片方は故障)

ーえぇ。それは辛いですね。まぁでも、新しい方は使えているんですよね。

超学生 めちゃくちゃ使ってますよ! 僕は漫画を全巻買って一気読みとかよくしちゃうので、スマホよりも目に良いから重宝しています。漫画作品だと、最近は『怪獣8号』を読んでいて、主人公が複雑な設定なのでそれに伴う葛藤とかが描かれているんですけど、ストーリーが面白いです。

今月の選曲 Giga×TeddyLoid「デスペレート feat. LOLUET」

ーでは本題ですね! 今回も選曲理由からお願いします。

超学生 はい! 前回の「月光」の選曲理由で“インターネット発っぽくない音”ってお話をしたら、その視点が面白いというツイートを見かけたので、今回もその方向性で考えてみました。「デスペレート feat. LOLUET」を聴いた感触として、“女性のK-POPアイドルっぽいボーカルの音がする”という話を今回はしていきたいと思います。

K-POPを思わせるエッジ・ボイスを強調した音

ーK-POPっぽい女声サウンドというのはどういうことでしょう?

超学生 一つ目の意味は、エッジ・ボイスを強調するサウンドであることです。“最近新しく出るK-POPの女性グループは、全部エッジ・ボイスを強調してる”と言っても、過言ではないぐらいだなと思います。もう一つの意味だと、ボーカルの人間味を排除するような処理がされているのが特徴です。自然に歌って声を録音したら、本来はもっと抑揚もあるし、マイクに入る音量などもバラツキが出るので、聴こえがでこぼこになるはずなんです。なのに、なめらかですごく均一化された音がするなと。

ーそれを例えば、具体的な曲名とともに教えていただけますか?

超学生 最近だとIVEの「After LIKE」とか聴いていて思いましたね。男性アイドルとか聴いていると、あまりされていない音作りなんじゃないかと思うんですよ。

ーIVEのメンバーは、ラップ担当のレイがハスキー・ボイスなのを除いて、結構元の声が柔らかそうな方々が多いですよね。

超学生 確かに、元の声質は柔らかそうな人が多いですね。K-POPアイドルってYouTubeチャンネルを持っていて、そこでレコーディング映像とかを発信しているじゃないですか。それを見たりしていて、チャン・ウォニョンさんとかはIZ*ONEに所属していたときに比べて明らかに声のエッジを強めて歌っているなと思うんです。

ーK-POPアイドルは、所属するグループが変わると歌い方がガラッと変わったりしますよね。

超学生 本人の無意識で変わっている可能性もないわけではないですけど、最近あらゆるグループで、おそらくそういったエッジを混ぜて歌う歌唱指導がされているのではないか?と思いました。

ーそれを「デスペレート feat. LOLUET」からも感じるということですか?

超学生 そうですね。Gigaさんが、Reolさんとの3人組ユニット=REOLを組んだ辺りからK-POPの影響を強めに受けられてるんじゃないかなって感じていて。Gigaさんの曲を聴くと、ご本人が歌唱している曲も含めて、エッジ・ボイスをすごく大事に処理なさっていると感じられるんです。今回の「デスペレート feat. LOLUET」も、入りのAメロからエッジ・ボイスが強調されているなと思います。

ー確かにIVEもそうで、Aメロの入りで言葉を発する瞬間、強めにエッジが効く表現はよく聴きますね。

超学生 もっと細かい話をすると、そのエッジ・ボイスの雰囲気にもグループごとの個性があるんじゃないかと思うんです。IVEとかならば少しふくよかな響きがあるけれど、BLACKPINKはハイがチリチリ鳴っているような感じ。

ーBLACKPINKは特有のカラッと乾いた感じの刺激がある成分を聴けますよね。

超学生 BLACKPINKとIVEのどちらかで言うと、「デスペレート feat. LOLUET」のエッジ・ボイスはIVEに近い、中低域がふくよかに聴こえるタイプのエッジ・ボイスだったなと思いました。こういうボーカルの音が、個人的にはGigaさんらしいボーカルの音作りだなと感じるんです。

プラグイン・ソフトで細かく調整したボーカル

ー超学生さんは、Gigaさんの音を研究したりもするのですか?

超学生 僕、Gigaさんの音作りがすごく好きなんですよ。なので、昔使っていた機材とかは追っていて見たことあるんですけど、最近のは分からないんですよね。でも聴く限りイン・ザ・ボックスな音(編註:PC内のソフト機材で制作を完結させていると思われるデジタルな音)ではあると思っていて、デジタルですっきりとした音に処理できるプラグインを使って作っているんじゃないかと思います。

ーGigaさんのミックスの傾向とかはありますか?

超学生 多分、超高域の部分はあまり好きではなさそうですが、音をジリジリとさせるのは多分お好きだと思うんです。これはK-POPっぽいサウンドの話にもつながるんですけど。ただそれより上の、耳に刺さる10kHz辺りは丁寧に削られているような音がします。それがGigaさんっぽいと感じる部分です。

Gigaのアグレッシブな音がTeddyLoidのキラキラとした音の中で映える

ー共作者のTeddyLoidさんの要素はどういったところから感じますか?

超学生 僕は、楽曲のアレンジじゃないかなと思いますね。

ーGigaさんのオケはガツンとした音の応酬みたいなのを感じますが、TeddyLoidさんのオケは球体のような音場、EDMらしい奥行き感とスネアとかシンセ・メロディの音色に抜け感があるのが特徴かと思います。

超学生 そうですね。あと、キックの音が特筆すべき点かなと思いました。Gigaさんの普段のキックってドンドコ鳴っていることが多いんですけど、「デスペレート feat. LOLUET」はキックが柔らかくて遠くで鳴っている。ボーカルの後ろで支えてるような位置に居ると思うんです。これも結構、曲の世界観の助けになってますよね。ちょっと余裕のある音というか。

ーGigaさんの曲とまた違う雰囲気を感じますよね。

超学生 Gigaさんはきらびやかというよりかは低域の効いたゴリゴリの世界観が強いと思うんです。だから、TeddyLoidさんのキラキラとした世界観が加わることで、新鮮な響きを感じます。Gigaさんのアグレッシブな音が、TeddyLoidさんのキラキラとした音の中で映えているという印象です。

ーキックの距離感は、曲の印象を決定付ける上で重要ですね。

超学生 キックが遠くなると、まずボーカルがより聴こえるようになりますよね。それこそK-POPアイドルの曲は、本人たちの声を聴かせることが優先されるからボーカルを主体にした音場作りがされると思いますが、「デスペレート feat. LOLUET」も同じようなムードを感じます。

左右に振ったボーカルの処理が丁寧かつユニーク

ーでは、ボーカル処理の話に戻りましょう。LOLUETさん一人とは思えないような多彩な歌声が聴ける曲ですよね。

超学生 そうなんですよね。それこその韓国のグループが交代で歌を回していくような、歌い方を変えた表現をしているのかもしれないですよね。最初はエッジを効かせて、途中から力強く歌い、サビでは伸びるような歌い方をするみたいな。あと声も楽器の一つとして飛び道具で使われたりする場面があったりするなと思います。左右からコーラスが比較的大きめに聴こえている場面が多かったり、オクターブ・ユニゾンでボーカルをなぞっていたり、とにかく声が主役なんだと感じます。

ー好きだなと思うボーカルの個性的な表現とかありますか?

超学生 AメロからBメロに移る前辺りで左右から鳴っているボーカルとか面白いですよね。あと「デスペレート feat. LOLUET」のサビは、最初静かなバージョンで2回目盛り上がっているバージョンで同じメロディを奏でるという、2つで構成されていますよね。この最初の静かな方で、ボーカルの音が思いっきり左右に居るのがすごいなと思うんです。

ーどうすごいのでしょう?

超学生 ボーカルをセンターだけで鳴らしているときはリバーブやダブラーで輪郭をぼかしたりできるんですけど、ボーカルを左右に振るとセンターで聴くよりも耳に近いところで鳴るので輪郭も出るし、生々しく聴こえてしまうなというのを常々思うんです。

ー左右に振っているボーカルまで丁寧に操作して人間味のないサウンドに処理して、全体になじませているということですね。

超学生 そうですね。この細かさってGigaさんらしいなと思います。IZOTOPEのRXで細かい第3倍音だけ音量下げるみたいな、余分なものを削って丁寧に整えているような気がするんです。

ーコンプレッサーで思い切りよく削るのではなくて、ということですね。

超学生 RXってスペクトラム解析によってあらゆる倍音まで細かく音の成分を見て、音量を落としたりすることができるじゃないですか。だからEQとかコンプよりも美味しい成分を生かして、本当に要らないところだけ削れるんですけど、最近のK-POPとかを聴いているとそういう細か〜い処理をした音が聴けますよね。

ー超学生さんの声はかなり人間味がある方だと思いますが、人間味を消す方向へ調整したりすることもありますか?

超学生 人間味が出過ぎちゃうこととかあるんで、結構やりますね。オートメーションもたくさん書きますし、ピークなどを削るプラグインのOEKSOUND Soothe2を使ったりします。でも「デスペレート feat. LOLUET」みたいにエッジを効かせたいときは、Soothe2だけだと音が前に飛んでこないんですよ。そういうときには、RXに替えてちまちまやるしかないんですよね。

ブレスやシビランスはエッジ・ボイスでは必要な要素

ーエッジを効かせるためにはどういう部分を生かせばいいのでしょうか?

超学生 ブレスとかシビランス(編註:歯擦音)とかって不要な音として言われますが、耳を刺激する上では多少必要なので、そういったものを削り過ぎないことが大事かなと思いますね。耳に痛くない形で、どれだけ生かせるかという。普通に歌うだけじゃエッジって効いてこないし、そういう成分ってレベルにすると結構小さいので。

ーあとはリバーブの質を変えることでアレンジが展開しているようなところを感じるので、それに伴ってエッジ・ボイスの響きも変わったりしますよね。

超学生 リバーブの質が変わるってつまりは歌ってるところの部屋が変わる感じだと思うんですけど、映画とかだとリバーブの質を変えることで“鏡に映る自分との対話”みたいな、“心の声”を表現することがありますよね。だから特殊演出的なリバーブの表現ってあるんじゃないかなと思うんです。

ー「デスペレート feat. LOLUET」においてはどうでしょうか?

超学生 サビのところに入った瞬間リバーブが止まるじゃないですか。ミックスの上ではリバーブのかかったサウンドがデフォルトですが、そのリバーブを意図的にズバッとカットしたりする表現は、歌詞をダイレクトに伝えたいときとかに有効だなと思います。

超学生が9月に購入したプラグイン

MCDSP EC-300(ディレイ)

ー最後に、9月に購入したプラグインは何かありますか?

超学生 今月はすごい良いのを買って、ずっと使っているんですけど。ディレイ・プラグインのMCDSP EC-300ですね。プラグインで出る音とは思えない、生っぽいというか、ビンテージ機材を通したような音なんですよ。

ーどういう目的で使うディレイですか?

超学生 WAVES H-DelayとかSOUNDTOYS EchoBoyのように音をなじませるための目的ではなくて、80sっぽいレトロな音にしたかったり、派手にディレイを聴かせたかったり、ダブラーのような感じで使うのに適しているディレイだと思いますね。

ー音にキャラ付けできるディレイということですね。お気に入りの設定などはありますか?

超学生 3つのモードDigital Delay、Analog Delay、Magnetic Delayが選べるんですけど、これがどれも良い音なんですよね。普通はプラグイン1個に対して、お気に入りのモード1つあって、そればかり使いまくるみたいなことが多いと思うんです。でも、EC-300はどのモードも本当に良い音で、しかも3バンドEQが内蔵されていて、モジュレーションもいろいろといじれるので、これだけでいろいろと作りたいなと思わせてくれます。あ、でもこれを読んで、もし購入を検討される方は、使用の上でiLokアカウントが必要になるので、持ってない方は注意してください!

「Overdose」でMCDSP EC-300を使用したとのこと

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