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上達のヒント

聞き手:Mizuki Sikano ※メイン画像引用元:YouTubeサムネイル(リンクは文中)

ネット発の歌い手というだけでなく自らボーカル・ミックス、エフェクト・プロセッシングも行う美的センスとこだわりの持ち主、超学生(読み:ちょうがくせい)。そんな彼ならではの視点で“ネット発アーティスト”を紹介し、そのサウンド的に魅力的な部分を語ってもらう。彼の脳内で日常的に行われている音楽的研究を通して、歌と音楽制作の楽しみを新発見できる連載! 今月はsasakure.UK「ÅMARA(大未来電脳)」です。

ネット発アーティスト・サウンド解剖開始

余談:あっという間に12月やクリスマスがやって来る話

ー最近はいかがお過ごしでしたか?

超学生 あっという間に12月ですよね。僕は趣味の一つがランニングで、ほぼ毎朝ランニングしているんです。ちなみに朝ランをする理由は、“朝に走ると身体に良い”と書かれた記事を読んだからなんですけど。でもこの前は久々に朝走れなかったので、夜中に走りに行ったんですよ。そうしたら近所の一軒家たちのクリスマス・イルミネーションがすごいことになっていて。

―キラキラした一軒家が密集する眩しい村みたいなエリア、たまに見かけますよね。

超学生 僕の住んでいるところは、まさにそういった一般家庭のイルミネーションが活発な地域なんです。僕はそのランニングをする前日ぐらいまで、自分のボーカル・ミックスやそのほか制作のお仕事が偶然重なって、全く夜に外に出られてなかったんですよ。そんな中久しぶりに外を出たら一軒家がキラキラしていて、“あ、今12月なんだ。ヤバッ!”って思いました。

「最近ランニングのために使用している」というNIKEシューズ

―ちょうど季節の移り変わる時期に家にこもっちゃう人限定のタイム・ワープみたいなのがあるんですね(笑)。あっという間にクリスマスも来ましたが、超学生さんの忘れられないクリスマスの思い出は何かありますか?

超学生 今でも忘れられないのは、小学4年生のときにクリスマス・プレゼントがガッツリ宅配便で届いたことですね。

―それは、ちょっと悲しいですね。一応“サンタさんだよ”とか言われたりは?

超学生 いや、フォロー・コメントは全く言われなかったですね。今、考えると親の意図が分からな過ぎて怖いんですけど、宅急便で届いたその場でプレゼントの入った箱を渡されました(笑)。

―“恋人がサンタクロース”みたいなノリで、“配達員がサンタ”みたいな方向性でやっていこうとしたのかもしれないですね。とにかく“小学校高学年からサンタが来ない”のが超学生さんの親御さまの意向だったと。

超学生 いや、でもそんな教育方針はなくない?って思うんですけどね(笑)。まぁ、でもとにかく“サンタクロースの概念が崩壊した”瞬間のことは、今でもよく覚えています。

今月の選曲 sasakure.UK「ÅMARA(大未来電脳)」

―気持ちを切り替えて本題に移りましょうか! 今回の選曲はsasakure.UK(愛称:ささくれP)「ÅMARA(大未来電脳)」です。超学生さんがsasakure.UKさんを知ったきっかけは?

超学生 僕が最初に聴かせてもらったのは5年ほど前で、YouTubeのおすすめであがってきた「quiz feat.初音ミク」でしたね。和音のニュアンスから、どこか“SFっぽいな” と思って、よく聴いていました。その後「GÜRIGÜRI (feat. Cana)」という曲にハマった当時の僕は中学生で、歌ってみたを自分で作っていたときでした。ボーカルがかなり前面に居るのと、本来だったら小さい音になっているささやきとかの成分が持ち上げられていることで、“声が丁寧に聴こえる!不思議”と思っていました。

―第3回で超学生さんが話されていた、エッジ・ボイスやささやき声などを聴かせるボーカル・ミックスは最近のトレンドですよね。

超学生 そうなんですよね。それって今でこそ流行しているじゃないですか? でも当時はとても新鮮な音で、僕にとっては刺激的な音楽体験だったなと思います。

―そんなsasakure.UKさんの「ÅMARA(大未来電脳)」を選曲した主な理由は何でしょう?

超学生 3つにまとめると、
・プロセカ2周年記念の書き下ろし曲にしては実験的
・電脳感の強い初音ミクと人間らしいKAITOの声質の対比
・ハードな音質ではないがトランジェントの立ったドラム

です!

僕らが思い描く未来にチューニングが合っている

―まずは一つ目のポイントから、確かに「ÅMARA(大未来電脳)」は高い芸術性を感じる楽曲ですね。

超学生 『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(以下、プロセカ)』はメジャー・シーンのポップスに感覚を合わせた曲が多いと思うんですよ。最近は方向転換してコアなことに挑戦されてるボカロPの方々なども、プロセカへの提供曲はみんなに好かれるような作りにしている印象が強いんです。でもささくれPさんはその考えとは逆のことをしていて、「ÅMARA(大未来電脳)」はとても実験的な楽曲だと思いました。

―確かに、プロセカやsasakure.UKさんのファンにとって、期待を超えた驚きを味わわせてくれる音楽性だったのかもしれないですね。

超学生 本当にそうだと思います。ささくれPさんは未来をテーマにファンタジーな楽曲を度々書く方だと思うのですが、その中でも「ÅMARA(大未来電脳)」は、マルチバースやメタバースといった今話題のテーマで、僕らも思い描く未来にチューニングを合わせて描いているのが分かる。

―今自分たちが体現しているSFだから、感情移入がしやすいということでしょうか。

超学生 その世界を描いた上で、ファンタジーを暴く声に抗うことを主題にして、“ファンタジーと現実どっちが本当か”と問いかける楽曲になっているんじゃないかと僕は解釈しているんです。“そんなの実際ないでしょ”みたいなことを言う人がいるけど、“果たしてどうかな?”みたいな(笑)。例えば昔の人は皆既月食を世界の終わりだと思っていたけれど、僕らは起こり得る事象だと分かっているじゃないですか。それと同じで“今ファンタジーとされていること、本当にファンタジーなの?”と問いかけている感じがします。

ボカロらしい初音ミクと人間らしいKAITOの声質

―幻想というテーマで、初音ミク(以下、ミク)とKAITOの果たす役割はとても大きいですよね。二つ目のポイント“電脳感の強い初音ミクと人間らしいKAITOの声質の対比”とのことですが、対比というと?

超学生 ミクがボカロらしい声質なのに対して、KAITOはミクよりも人間らしく調整されていると感じます。かかっているエフェクトとの相性も良いのかもしれませんが、本当に肉声かと思いました。ミクとKAITOの声質を分けることが演出の一つになっているんだろうと思います。あとミクのボーカルは柔らかいトランジェントで、ウェットな質感になっていますが、ほかの楽器の定位をズラすことで主役感が消えていません。このボーカル・ミックスにより、ささくれPさんは電脳感を強めたかったのではないかと思いました。

―子音などを聴かせ過ぎるとデジタル感がうすくなる?

超学生 そうですね。初音ミクの声もドライで子音などを強調させた処理にすると、どんどん人間っぽい響きになっていくと思うんです。先ほど話していた歌詞の世界観を考えると、「ÅMARA(大未来電脳)」はミクとKAITOがボーカロイドとして歌っていることにめちゃくちゃ意味がある曲じゃないですか。

―ミクが機械らしいからこそ、伝わるメッセージがあるということですね。

超学生 そうですね。あとほかにも理由があると思っています。それは、例えば3Dアニメなどでめっちゃ人間っぽいけど少し違うみたいなポイントがあると人間は超不気味に感じる、それをよく “不気味の谷”なんて言うじゃないですか。知り合いのボカロPによると、その不気味の谷がボーカロイドのボーカル・ミックスをしているときにもたまに現れるらしいんですよ。そういうこともあって、ミクを人間らしく歌わせるよりも、機械らしく歌わせた方が良いって考える方々も居ますよね。

―そんなミクのボカロ然としたところを生かすためにリバーブなどでウェットにすると、音場となじみ過ぎてしまうという懸念事項があるということですね。

超学生 そうですね、主役感が消えていってしまうと思うんです。そこで、ピアノとベースをあえてフワッとした位置から聴こえさせるのが絶妙だなって思いました。昨今のK-POPのようにドライめで子音を立たせながらもオケとなじませるボーカル・ミックスとは、また違った難しさがあるなと思います。僕自身とても勉強になったと感じています。今度リバーブの深いボーカルをミックスするときに参考にしたいです。

―ボーカルやピアノ、ベースなどはワイドだったりウェットだったりで丸い音ですが、パーカッションやシンバルやチップチューンなどはもっと輪郭がはっきりしていますね。

超学生 それが3つ目のポイントにつながっていて、決してハードな音ではないですがトランジェントをしっかりと立たせたドラムによって、幻想的な世界というだけではない楽曲に仕上がっているなと思います。プロセカでゲームとしてプレイすることも視野に入れて制作していると思うので、ノリやすさなども必要じゃないですか。ドラムの程良いトランジェントが良い仕事をしているなと思います。

―ミクとKAITOの歌唱を軸にして、リズムごとオケが目まぐるしく変化するのが実験的ですね。

超学生 ミクとKAITOが「ÅMARA(大未来電脳)」のストーリー・テラーとして立っている中で、世界が変わっていくのを表現したかったんじゃないかなって思いました。集中して聴くと、変化するメッセージの背景を、楽器の演奏で完ぺきに裏付けしていっているように感じます。つくづく、ボーカル・ミックスからオケまで魅力的です。

超学生が11月に購入したプラグイン

SLATE DIGITAL Virtual Tube Collection(真空管モデリング・プリアンプ)

―では最後に今月のプラグインの話にいきましょう!11月に購入したプラグインはありますか?

超学生 今月はAPI 500モジュールをモデリングしたエフェクト、SLATE DIGITAL Virtual Tube Collectionを購入しました。London、New York、Hollywoodっていう3種類のマイクプリが収録されていて、これらのキャラクターがかなり異なるので、声質をガラッと変えてくれて、めちゃくちゃ面白いんですよね。

―操作してみてどうですか?

超学生 それぞれのモジュールでプリセットがあって、ボーカルに使用する場合は“ボーカル”と書かれたプリセットを使い調整したりするので、操作はシンプルです。「げのげ @歌ってみた」のミックスで使っています。ボーカルをNEUMANNのTLM103というマイクで録音して、New Yorkを通したら音の密度が高まったような印象を抱きました。サチュレーターもかけて少し暴れた音をまとめる目的で、コンプのUNIVERSAL AUDIO UAD-2プラグインTeletronix LA-2A Classic Leveler Collectionと組み合わせて使用しました。

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