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※メイン画像引用元:YouTubeサムネイル(リンクは文中)※歌詞引用元:https://piapro.jp/t/_Yii

ド頭にツミキさんが用意した表現

まず、出だしに詰め込まれたたくさんの魅力に注目してみます。昨今のライトな音楽リスナーの方々は、曲を長いこと集中して聴くよりも“少ない時間でより多くの曲を聴く”という傾向にあるため、ド頭の表現が重要だと言われています。

この楽曲では、まず心地の良いリズム・パートとシンセ・パートのオーディオ・カットアップにより構成されたイントロ3小節に始まり、ローパス・フィルターなどを利用しテンション感を徐々に引き上げてからの、リスナーの心を鷲掴みにするキラー・フレーズ<電波テンポアップして絶賛感電中!>へとつながります。これらの要素が融合することで、出だしからキャッチーさのみならず独特の中毒性も生み出していると思うのです。

そして冒頭からも分かるように、この曲がリスナーを惹き込む理由として欠かせないのは、“歌詞の響きの良さ”。かなり独自の考えですが、これは長年歌声合成ソフトを使用して楽曲を制作されてきたツミキさんの”歌声を楽器として強く認識する”という視点と、それを消化し独自のグルーブ感/歌唱法で歌い上げる花譜さんの両方の化学反応により生まれているもの。

まさにこの曲は、ボカロ曲を長年生み出しそして探究し続けたツミキさんと、ボカロはもちろん、ジャンルに縛られずに数多の楽曲をカバーして自身の世界観を築き上げてきた花譜さんの2人がコラボしたからこそ誕生した、素晴らしい芸術作品なのです。

正確なリズム・エディット&癖の誇張=心地良い歌の条件

“心地の良さ”に重点を置いた作詞を歌ったボーカル音源において、僕が思う大切な条件が幾つかあります。

まず一つは“正確なリズム・エディット”です。ツミキさんの過去作で同様の耳なじみの要素を有している曲として「フォニイ」などがあげられます。この楽曲は音声創作ソフトCeVIO AIのボイス可不によるボーカルだったため、音程はともかくリズムは基本的に(ある意味機械的に)正確になります。

しかし今回のボーカルは花譜さんの肉声による歌唱音源ですね。当然、花譜さん本来のリズム感が素晴らしいことは言うまでもありませんが、どれだけテンポ感に優れた人であっても波形単位で見れば必ずズレは生じます。それが肉声の良さでもあるのですが、今回のように縦のリズムを強調した曲においては、ボーカルのリズムを正確に、そして丁寧に直していることが、心地良い歌に仕上げるための大きい要因になっていると思うのです。

もう一つは“癖を消さずに誇張すること”。これは一見、正確なリズム・エディットと相反する要素に思えるかもしれないですが、リズムが正確だからこそ、花譜さんの独特な声質を消さずに、強調できるのだと感じます。ではここにおける“癖の強調”とは具体的に何かということに関しても考えてみます。

例えば、語尾や歌う直前、本来譜面には記さないような音程や音価の無い声を強調するのが一つ。冒頭の<感電中>の後に入るしゃくりあげたような声、2番Aメロ入りのため息のような声などが、まさにその代表的表現と言えます。それから、発声に乗る吐息成分も絶妙に誇張されて、耳に心地良いサウンドを生み出しているのです。人により持っている癖はさまざまであるため、誰にでもこれらの手法がマッチするとは言えませんが、今回の楽曲と歌手のコンビにおいては、以上のサウンドが大衆の心を掴んだのではないかと、僕は考えます。

K-POPのボーカル・ミックスとは異なる中毒感

僕がこの連載記事において多く言及してきたK-POPや洋楽で行われることの多いボーカル・ミックスでは、トランジェントやエッジボイス、そして倍音処理の丁寧さなどが要になっていること、そしてそのサウンドが人を引き付ける魅力にもつながっているというのをお話ししてきました。しかし今回のボーカルでは、それらの要素がないわけではないですが、それとも違う“花譜さんの歌声だからこそできる処理”で中毒性を生み出していたという点が非常に興味深かったのです。

今回のボーカルは全体的に、今までの花譜さんの音源で聴ける音よりもウォームなサウンドで、アナログ機材を通したとき特有の味をかなり帯びていると僕は感じます。レコーディング環境については分からないので定かではないですが、冒頭から花譜さんのハスキーで繊細な歌声と対になるような、重心の低いややざらついた(NEVEの機材を通したサウンドとも受け取れる)音に加えて、シルキーで滑らかな音作りがされており、現代の女性ボーカルではあまり聴かない新鮮味が感じられます。

またウィスパーボイスの処理も独特。子音や高域のチリチリ感を強調した音作りではなく、喉の奥の開き、まるで耳元で歌っているかのような低域成分を強調しているサウンドだと感じたのです。1番Aメロの<ドラマチックが足りてないからよ>という部分で、僕はそれを強く感じました。トラックのサウンド・メイク自体がシンセのキラキラ感やレトロ感の強い物なので、そのサウンドとバランスを取るという側面においても、このボーカル・サウンドは秀逸だと感じます。

レトロ・モダンを感じさせるサウントとアレンジ

先ほども少し触れましたが、この曲はミュージックビデオの近未来感や、花譜さんとツミキさんという現代音楽の先駆者によって生み出される実験的なムード、新鮮さから来る未来要素が漂っていると思います。それにもかかわらず、サウンドに集中して聴いてみると、編曲はある意味でレトロ、ビンテージな要素を多く含んでいると感じました。

ビート・メイキングや音色の選び方が、現代的なものというよりも、聴く人によってはどこか懐かしささえ感じるような音選びではないかと思います。特に、シンセサイザーからはそれが強く感じられて、飛び道具的に挿入されるピコピコなど、伝説的なデジタル・シンセサイザーを彷彿とさせるようなサウンドメイクが多く入っていると思いました。

それでありながら、絶妙な匙加減で現代的に処理されている、そしてそれらの音が複雑に折り重なり、この独特なレトロ・モダンを模っているのではないかと思います。

超学生が2月に購入したプラグイン

ANTARES Avox(多機能ボーカル用エフェクト)

僕は基本ダブル・トラック用として、ボーカルを2本録るようにしています。購入したANTARES Avoxは、部分的にリード・ボーカルを特殊効果っぽく広げたいようなとき、僕がミキサーを担当した場合やミックスのご依頼を受けた場合などで、受け取った音源のダブル用トラックが1trしか録られていないようなときのために、最も自然かつ手軽な方法でダブリングさせるプラグインが欲しかったため購入しました。

「ちゅ、多様性。 @歌ってみた」で使っています。

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