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聞き手:Mizuki Sikano ※メイン画像引用元:YouTubeサムネイル(リンクは文中)

Azariサウンドはラウドネスの観点で有利

低重心+広いステレオ・イメージ=ラウドネスの観点で有利な理由

―全体的にかなり低重心ですよね。

超学生 それが、“今、YouTubeみたいな場所では強い”と思う理由です。

―YouTubeで低重心が強いというのは?

超学生 まず前提として、YouTubeの採用している音量検知/自動調整システム=ラウドネス・ノーマライゼーションによって、さまざまな音楽が一定の音量にそろえられる仕組みになっています。それにより、投稿主がアップする音源がそのままの音量で聴けないんです。

―10年以上前の基準とは異なり、ラウドネス値を基準にしたことで、中域とかに音をぶっ込み過ぎると全体音量が高いとされて、音量が下がってしまうのですよね。

超学生 おっしゃる通りですね。いわゆる海苔波形と呼ばれるようなガッツリ音圧の詰まった音を作っていた時代が終わり、今のこのラウドネス・ノーマライゼーションでどうしていこうかっていう。

―音作りをする皆さんの、共通課題ですね。

超学生 そういう空気感があるんですよね。そんな中で、低域は検知されづらい(=ラウドネス値のメーターを上げにくい)んですよ。かつ、同じラウドネス値でもモノラルよりステレオが広い方が大きく聴こえるので、ステレオ・イメージを上手く使うと良いと言われています。

―Azariさんの低重心な音作りとはどのように関係のある話でしょうか?

超学生 今までベースとかキックはモノラル・トラックにして真ん中に集めましょうってセオリーがあったのですが、そこからは逸脱していて、ベースのステレオ・イメージが広いんです。低重心+広いステレオ・イメージという2点の要素において、Azariさんの曲はラウドネス・ノーマライゼーションの観点で有利なので、“研究されていらっしゃるのかな”と思いました。

―ラウドネス値に影響しづらい場所の音が出ている?

超学生 Azariさんの曲はヒップホップのビート基調にしていて楽器数が少なく、使っているボーカロイドも全部女声でピッチが高いですよね。今回試しにマスター・レコーダーのTASCAM DA-3000で「Be My Guest」の音を録って聴いたら、低域が高密度に作られてて、高域はとても余裕を持ったダイナミック・レンジだったんです。さっきの話で言うと、ラウドネス・ノーマライゼーションで検知されにくい部分で音圧を作り、検知されやすい部分はなるべくスカスカに空けているということですよね。

―そういった音作りをしているのはほかにも例がありますか?

超学生 ビリー・アイリッシュの音楽を作っているフィニアス・オコネルのサウンド構成が配信サイトで有利と言われるのと同じ仕組みじゃないかな”と思っています。

ドライで生々しいサウンドがホラーと相性抜群

―リバーブとか空間コントロールについてはどうでしょうか?

超学生 「Be My Guest」はもう、リバーブ音がほとんどないですよね。かなりドライな音でオケが構築されていて、楽器数が少ないのも相まってかなり生々しい雰囲気になるんですよ。 “そこにある”っていう感覚が、ほかの曲に比べてかなり強くなる。

―ドライで近めの音って、怖くてゾクゾクしますよね。

超学生 そうなんですよね。リバーブはいわゆる部屋のデザインで、どこの部屋に居るのかデザインするのがリバーブの仕事だと思うんです。ルーム・リバーブだと小さいお部屋、ホール・リバーブだと大きな大聖堂で歌ってるようにできるわけじゃないですか。それをあえて切ると、ヘッドフォンで聴いたときにもう脳みそに直接ボーカルが居る状態になる。これがね、怖いですよね(笑)。

―背後に居るとか、急に近くに来てキャー!みたいなのがホラーの世界ですもんね。

超学生 なので“視聴者を怖い世界観に誘うような表現”をする上で、“リバーブ無し”はかなり良いと思ってます。僕独自の感覚になっちゃいますけど、“飛び道具的な表現”でも基本の音が乾いてると良いですよね(笑)。

―飛び道具というのは、聴かせたいポイントで少しだけ置かれるようなちょっと変わった音やフレーズのこと?

超学生 おっしゃる通りです。それこそバイノーラル・パンナーを使った立体ミックスで、音を背後に回したり、突然右前から聴こえさせたり、急に夢の中に行く感じで遠くなるみたいなことをしたいときに、“音が乾いていればいるほど、受け取りやすい”から、そういう意味でも乾いた音はホラー向きじゃないかなと思います。あと乾いた音は、ラウドネス・ノーマライゼーションの観点でもきっと有利ですよね。だって、リバーブを避けたらすき間ができるので全体音量が下がるから。

―最近はバンドを聴いていてもガッツリ音圧のイメージはなくなってきましたよね。そういった動きは、ラウドネス・ノーマライゼーションが音楽表現にも影響を与えている結果なんでしょうか?

超学生 確かにそういう音は流行しているとは思うんですけど、僕個人的にはそういう音の方が良いとかじゃなく、現代のシステムで“今まで音圧上不利だった細かいドライな音とかをちゃんと聴いてもらえるようになった”と受け取っているんですよね。なので、別に爆音ギターのバンド・サウンドが不利になったわけでも、音数を減らした作りが音楽的に優れているわけでもないって思っています。これは結構大事な話な気がする。

―あくまで有利ってだけで、音楽的に良い悪いとは関係ないと。

超学生 そうですね。だって、例えば、『チェンソーマン』のエンディングとしてsyudouさんが作った「インザバックルーム」はもう、めちゃくちゃテンション高めのロック・サウンドでしたし、マキシマム ザ ホルモンさんの「刃渡り2億センチ」なんかもメタルで。その一方でTOOBOEさんの「錠剤」なんかは、もうまさに楽器数も比較的少なめで、ドライな音でっていう。

―色んな表現があっていいですよね。

超学生 僕がミッチミチの海苔波形にしないようにリミッター、マキシマイザーをそんなにかけないのは、今のYouTubeだとラウドネス・ノーマライゼーションで音量を下げられてしまうからで。でも、別に全然リミッターかけることによるひずみ効果とかが好きだったら、全然かけた方がいいと思うんです。“スカスカな音にしなきゃ”っていう沼で音楽的ニュアンスを損なってはならないと思いますね。

―自分の守りたい音、スタイルは大事に持って、世の中の技術に翻弄されない方が良いと。

超学生 そうなんです、僕は今これが一番大事なことだと思いますよ。極論、聴く側が好きな音量に調整するんです。なので、別にあんまり気にしなくてもいいかもしれないんですよね。皆がAPPLE iPhoneの横をタップして上げてくれると思うので(笑)。

―確かに、最後の音量出しはリスナーにかかっているのが、今のスマホで音楽を聴く文化の大事なポイントですね。

超学生 だから、これからもアーティストは自分の好きな音を追求しようっていう話ですね。

超学生が12月に購入したプラグイン

UNIVERSAL AUDIO UAD-2 Lexicon 224(70’sデジタル・リバーブ・モデリング)

―最後に、最近買ったプラグインを教えてください!

超学生 僕はUNIVERSAL AUDIO UAD-2 Satellite持っていて、めちゃくちゃUAD-2プラグインを持ってるんですけど。

―お話を聞いていると、超学生さんはわりとUAD文化圏の方ですよね(笑)。

超学生 そうですね(笑)。今月買ったのはUNIVERSAL AUDIO UAD-2 Lexicon 224というリバーブで、UAD Sparkサブスクリプションでも使えます。

―そういえば、この連載の初回でUNIVERSAL AUDIO UAD-2 LEXICON 480Lを紹介してましたよね?

超学生 そうなんです、だから今回は224っていう方ですね。これ、いいなと思ったのが低域と中域のリバーブ・タイムを別々に設定できること。480Lだとできないんです。あと響き的にも、224の方がクリーンで現代的な感じで、僕は好きでしたね。

―今月、実際に使ってみましたか?

超学生 はい。anoさんの「ちゅ、多様性。」の歌ってみたで使いました。レトロな曲だったんで、むしろアナログライクなリバーブの方がいいのかとか、迷ったんです。でも今回インストを、知り合いのボカロPにお願いして作ってもらって、彼の作る音が良い感じに現代とレトロのハイブリッド・サウンドだったので、224がピッタリ合いました。

―癖が無い方がいいときに良さそう?

超学生 まさに“リバーブに独自の味が欲しい”ときより、“単純に奇麗に響いてほしい”ときに良いと思います。“ちょっとノイジーなリバーブがいい”とか、ザラザラさせたいときは、EMTの140のモデリングしたようなリバーブが良いかもしれないです。

―UAD-2 Lexicon 224はこれから使いやすいリバーブの一員になりそう?

超学生 かなり今お気に入りなんで、しばらくはたくさん出番あるんじゃないかなと思います! 特にプレート・リバーブとしての出番が多くなりそうです。

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